まあ、きみがあいつの性格とソ
リが合わないところがあるのはわ
かる。
と本部長がいう。ノリの軽いうちの部
長に相談しても埒が明かないと思った
俺は、その上司の本部長に話を聞いて
もらっていた。あいつ、というのは例
の口の悪い同僚のことだ。奴にはもち
ろん内緒だ。
部長にも言いましたけど、ソリが合わ
ないところがある、っていうのはとて
も控えめな言い方だと思います。
俺は言った。この本部長もなんだか俺
が大げさに話していると思っているの
だろうか? 俺は嫌な予感を感じた。
まあまあ。どうもきみは物事を過剰に
ネガティブにとらえる癖があるように
私には思える。もうちょっとポジティ
ブにとらえ直せないかね?
本部長はなにやらビジネス書に書いて
あるようなことを言い出した。ポジテ
ィブに、ですか? 俺はすでに胃の中
が重くなるのを感じながら返事をした。
そうだよ、例えばきみはあいつが口が
悪いと言っていたが……
悪いなんてものじゃないですよ。俺は
本部長を遮るようにして言ってしまっ
て後悔した。まずい、本部長を怒らせ
ないようにしないと。
しかし本部長は気にしない様子で話を
続けた。
だが、それは見方を変えればあいつの
思いやりともいえる。思いやりがある
からこそ、口うるさいこともいってく
れるのじゃないかな?
はあ……。俺はしばらく黙って聞くこ
とにした。
それから、自分勝手なやつだとも言っ
ていたが、それはあいつが他人のルー
ルに縛られず、自分の意見を主張でき
るということでもある。リーダーシッ
プのある人間なんじゃないかね?
そのリーダーシップに俺を巻き込まな
いでほしい、と思ったが、黙っていた。
あと、クライアントによくその場しの
ぎのことを言うときみは言うが、つま
り彼は機転が利く、ということではな
いかな?
その機転のおかげで、先週は土日とも
出勤になったんです、という言葉が喉
まで出かけたが、なんとかこらえた。
ついこの前もクライアントの役員から
2人には感謝しているというお言葉を
いただいている。その2人の担当を変
えますとは、今は言えない。分かって
くれたまえ。ポジティブにね、頼むよ。
本部長もダメか……俺は絶望的になっ
て天井を見上げた。
……ところで肩を揺さぶられて目が覚
めた。
どうした。今日も居眠りか? 本当に
しょうのない奴だな。
目を開けると同僚がいた。手には何や
ら楽譜らしきものを持っている。どう
せまたライブが近いのだろう。
なんだか1人でこそこそ本部長に会い
に行ったそうじゃないか? ボーナス
の査定、そんなに悪かったのか?
まずい、もう本部長と話をしにいった
のがばれている。
そんなにしょっちゅう居眠りしている
ようじゃ、しかたあるまい。同僚は笑
いながら言った。
エネルギーの充電といってくれ。俺は
吐き出すように言った。
同僚はますます大きな声をだして笑い
ながら立去っていった。
本部長、なんで俺なんですか。俺はま
た心の中で叫んだ。誰か別のもっとポ
ジティブ・シンキングな奴がいるでし
ょうに。
俺は机に顔をうずめた。もう少しエネ
ルギーの充電をさせてもらわないとや
ってられない。
※このお話はフィクションです。現実
の会社、同僚、本部長への相談などと
は関係ありません。たぶん。
※※こちらの本を参考(?)にしまし
た(笑)
て、ことで。
では、また ( ̄▽ ̄)