（このお話はフィクションです）
急に呼び出してすまんな。部
長が言った。
いえ。俺は答えたが、同僚は何も言わ
なかった。まあ、予想されたことでは
あるが。
俺も同僚も、今日は在宅勤務の日で、
家で作業していたのだが、急に部長か
らオンライン会議の招集がかかったの
だ。
実は、Ｓ山のことなんだが。部長は言
った。Ｓ山というのは、最近俺と同僚
のチームに加わった若手の社員のこと
だ。
Ｓ山がどうしたんですか？ 俺は聞い
た。
いや、どうもちょっと自信喪失気味の
ようでな。自分がチームの戦力になれ
ていないと思ってるようで、落ち込ん
でいるみたいなんだ。叱られてばかり
なんです、と言ってたが。
部長はＳ山が誰に叱られるとは言わな
かったが、もちろんそのほとんどは同
僚なのだ。確かに何をやっても同僚は
あれこれとダメ出しをしている。俺は
ちょっとは気を使った方がいいんじゃ
ないかと言ったこともあったが、同僚
は気にするそぶりも見せないのだった。
仕方ないじゃないですか、ドジなこと
ばかりしてるんだから。そこで同僚が
口を開いた。
うん、そりゃ業務上注意したり教えて
やらなければいけないこともまだ多い
というのはわかる。部長は言った。
だが、このまま行くと、下手すると落
ち込んだまま会社を辞めるとか言い出
しかねない気がするんだ。最近のあの
Ｚ世代とかいう若い連中は、挫折や失
敗の経験が少なくて、耐性が低いそう
だ。部長は続ける。おおかた部長研修
ででも聞いたんだろう。
なので、叱るときは一緒に褒めること
も考えてやってほしい。部長は言った。
褒めるようなことしてないのに、何を
褒めろっていうんですか？ 同僚は即
座に反論した。
なんでもいいんだよ。彼の存在を肯定
するようなことをつけ加えるんだ。部
長はそう同僚に答えた。これは部長と
しての業務指示と受けとってもらいた
い。
そう言われて同僚は不服そうな顔はし
つつもそれ以上の反論はしなかった。
もう少ししたら、この会議にＳ山も参
加することになっている。なので、ま
ず最初にこの３人で彼にポジティブな
声をかけることにしようじゃないか。
部長は続けた。
同僚は一瞬部長を睨みつけるような目
をしたが、すぐに下を向いた。
特に具体的に仕事のことを褒めなくて
もいいんだ。着てる服がかっこいいな
とか、そんなことでもいい。いつも頑
張ってるなとか、そんな程度でいい。
何かポジティブな言葉をかけてやって
くれ。お、Ｓ山が入ってくるぞ。いい
な、業務指示ということで頼む。
Ｓ山が入ってきた。
お疲れさん。お、眼鏡変えたのか？
そうか、なかなかいいじゃないか。部
長がまず声をかけた。
お疲れ。Ｓ山がチームに入ってくれて
助かってるよ。ありがとうな。俺は続
いて声をかけた。結構本音の気持ちだ
った。あの同僚からの嫌味なプレッシ
ャーを受けるのを分担できて、俺とし
てはかなり助かっているのだ。
そして、俺と部長は、固唾を飲んで、
同僚が口を開くのを待った。
い……
同僚は何か言おうとしている。
いつ……
いつも頑張ってるな、と言おうとして
いるようだ。早く言ってくれ。俺は緊
張しながら思っていた。
い、いつになったらお得意へのレポー
トを送るんだ、さっさとやれ。
画面越しに部長がズッコケてフレーム
アウトするのが見えた。
俺は思った。こいつがギター・デュオ
しかやらないのは、好きでやってるわ
けではなくて、３人以上のバンド・メ
ンバーとやってなんかいけないからじ
ゃないだろうか。
いや、そうに違いない。
※このお話はフィクションなので、現
実のＺ世代若手社員、チーム内の軋轢、
上司からの指示などとは無関係です。
たぶんね。
て、ことで。
それでは、また。(￣▽￣)
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