1年ぶりか……俺はつぶやいた。
俺が最後に出社してから、確かに1年
が過ぎていた。久しぶりにオフィスに
戻った俺は、浦島太郎のような気分だ
った。
1年半前、俺は希望していた1年間の
大学院での国内留学の選考に受かり、
あの同僚とのコンビも解消して、学生
生活を送らせてもらったのだ。このご
時世に、会社もよく行かせてくれたも
のだ。
1年間なのでハードではあったが、土
日にはジャムセッションにもしょっち
ゅう行けたし、おれはハッピーだった。
そして無事に MBA の資格を手にした
俺は、こうやって会社に戻ってきたと
いうわけだった。
俺がやっていた仕事はどうなったんだ
ろうな。俺は思った。確かあの仕事は
入社2年目の若手社員が同僚とコンビ
を組むことになったはずだった。
あの同僚との仕事をそんな若者に託す
ことになって、俺は少々心が痛んだが
それ以上にあの同僚から解放されるこ
とが嬉しかった。
あれ? そうか1年経ったんですね。
おかえりなさい。後ろで声がした。
見ると、留学に行く前に一緒に仕事を
していた内勤の社員だった。同僚がな
んでもクライアントに言われた無理を
押し付けるので、かなりの苦労をかけ
た相手だ。
ああ、君か。どうだい、最近例のクラ
イアントの仕事は? 相変わらず無茶
なこと言ってくるんだろうな。俺は尋
ねた。
ああ、いや、それがね。あの若手の彼
に担当が替わってすぐに、一つとてつ
もない無茶な依頼が来たんですが、結
局それ、納期に間に合わなくて、穴を
開けちゃったんですよ。
え? 本当か? それでどうなった?
俺は驚いて聞き返した。
それがね、もちろんうちの社内でも問
題になったんですが、あちらさんの方
でも、あんまり無茶な発注をするもん
じゃない、という話になりましてね。
最近では、そんなわけで、結構オーダ
ーがまともになりました。おかげで、
定時に退社できることも多くなりまし
たよ。
その社員は、笑って、じゃまた、とい
って立ち去った。えええ〜〜
そんなことがあったとは。社内の根回
しとか大変な苦労していた俺の努力は
何だったんだ。俺は、呆然として、そ
ばにあった椅子に崩れ落ちた。
……
と、いうところで目が覚めた。夢か。
ちぇ。世の中は甘くない。ま、今どき
MBA なんてのも流行らないか。
また、昼寝か。いい気なもんだな。同
僚の声がした。見ると俺の目の前に立
っていた。
お得意からのあの発注の件、内勤には
伝えたのか? どうせあいつらは時間
がないとか文句言うんだろうが、ちゃ
んと言うこときかせてくれよ。俺は明
日ライブがあるから帰るぞ。じゃな。
そう言って同僚は立ち去った。
俺は、黙って見送っていたが、この案
件、穴を開けた方がいいのではないか
と思いはじめていた。それが、みんな
の幸せのためじゃないのか? いや絶
対そうに違いない。
そんなどす黒い思いが脳内を駆け巡る
のを、俺は押しとどめることができな
くなりつつあった……
※このお話はフィクションですので、
現実の国内留学制度、クライアントの
無茶振り、社内のもめごとなどとは無
関係ですよ。たぶん。
て、ことで。
それでは、また。( ̄▽ ̄)
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