まあ今回も、きみがあいつの
独走が引き起したごたごたをな
んとかまとめてくれたのには感
謝している。
プロジェクト・マネージャー(PM)
は、慰めるような目で俺に言った。
PC の画面越しなので、ほんとうにそ
んな目をしていたかどうかは実はよく
わからないが、なぜか俺はそう感じた。
あいつというのは例の同僚のことだ。
また奴の独断でクライアントのオーダ
ー内容を勝手に変更して社内に振った
ので、大騒ぎになりかけたのだった。
はあ。俺は言った。でも、もういやで
すよ。あいつが勝手やってる裏で社内
やクライアントとの調整つけるだけで
俺の仕事は手いっぱいです。なんとか
あいつと別の仕事になるように口添え
してもらえませんが。
プロジェクト・マネージャーには人事
権はないのだが、社内的には1つのプ
レッシャーになるだろう。俺はそう思
って PM に頼んだ。
そりゃあ、まあ、きみがそこまで大変
なら話をするのはかまわないけど、た
だきみとあいつの組み合せは、私はそ
れはそれでダイナミックで悪くないと
思うんだがなあ。
ああ、まただ。おれはため息をついた。
私は、きみの働きは聴く人が聴けば素
晴しいとわかるベースのリフみたいな
もののような気がするんだ。
はい? おれは身構えた。ベースのリ
フですか?
あー、いや。きみには話したかどうか
忘れたけど、私の趣味は1970年代を中
心としたアメリカのソウル・ミュージ
ックを聴くことでね。PM は言った。
また音楽好きの上司かよ。変な会社だ。
俺は思った。
かまわず PM は話を続ける。それで、
私の好きな曲にオージェイズの For the
Love of Money という曲があるんだが、
その曲のベースのリフがかっこいいん
だよ。
オージェイズはもちろんヴォーカル担
当で、そのベースのリフの上で歌うわ
けなんだけど、この曲の最大の魅力は
このアンソニー・ジャクソンの弾いて
いるリフだと思うんだ。
アンソニー・ジャクソンて、あの上原
ひろみとやったりしてるあの人ですか?
そうそう、彼の若い頃の演奏だ。なん
だきみも音楽に詳しいのか。ならわか
るだろ? あいつが勝手やっても、き
みがどっしりベース・ラインを作って
全体を支えているというこの取り合せ
の妙が…… PM はしゃべり続けた。
……
PM とのオンラインの打合せを終えた
後、その For the Love of Money を聴
いてみた。確かにカッコいいリフだ。
ネットで調べてみると、あまりにカッ
コいいリフなので、全編にフィーチャ
ーして、エフェクトやらなにやらかけ
まくったらしい。
確かにこのリフに例えてもらうという
のは光栄ではあるが……と俺は一瞬思
って慌てて頭を振った。
いやいや、そんな甘い言葉に騙されて
なるものか。いやだ、あいつとはもう
やりたくない。フィラデルフィア・ソ
ウルなんて嫌いだ。そんなことを考え
ながら俺はオージェイズの歌を聴いて
いた。
て、ことで。
それでは、また。( ̄▽ ̄)
※このお話はフィクションなので、実
在のプロジェクト、マネージャー、ク
ライアントのオーダー、とは無関係で
す。あ、アンソニー・ジャクソンのリ
フは実際かっこいいですよ。