出張先のクライアントとの打
ち合わせを終えた俺と同僚は、
地元の支社に戻って今後の対応
を話し合っていた。
ち合わせを終えた俺と同僚は、
地元の支社に戻って今後の対応
を話し合っていた。
クライアントのクレームはわが社の納
入したソフトウェアについてのわが社
のサポートに不満があるということだ
った。先方の担当者の嫌みにずっと耐
えていて疲れた俺は、早々に切り上げ
たかった。
まあ、なんだ。基本的な問題は分った
わけだから、本社に持ち帰って、上と
相談して……俺は言った。
いや、本社に帰って会議やっていたん
じゃ時間がかかり過ぎる。もう2,3日
こっちにいて、支社の担当と話し合っ
て、話を聞いて現場に近いところで対
応を考えたほうがいい。同僚は言う。
しかし、本社との相談なしに進めたら
あとあと問題になるぞ。俺は言った。
ちゃんと改善計画を本社で認めてもら
った上で動かした方がいいんじゃない
か?
そんな時間的余裕はない。クライアン
トの担当者も言っていただろう。今回
の件は急を要するんだ。どんないい計
画を作っても半年後じゃ遅過ぎる。ク
ライアントを失いたいのか。同僚はま
くしたてた。
計画を立てることにこだわるのは、P
DCA信者の悪いクセだ。現代はPDCA
の時代じゃない、OODA(ウーダ)の
時代だって知らないのか?同僚は続け
た。
う、うーだ?なんだよそれ。俺は言っ
た。同僚の最新ビジネス用語かぶれは
今日に始まった話ではない。
OODAというのはアメリカの空軍で始
まった徹底した現場主義のやり方だ。
まず現場で何が起きているかをよく観
察(Observe)して、そして状況判断
(Orient)し、何をやるべきかを決め
(Decide)て、行動(Act)するとい
うループを高速に回していく。同僚は
早口で説明した。
おまえはジャムセッションとかやって
るんだから分かるだろう、どうやって
ソロを弾くか、会議やって計画を立て
るわけじゃないだろう。たとえ計画を
立てたところで、セッションの相手が
計画通りにくるなんてことはない。同
僚は急にそんなことを言い出した。
そりゃそうだが、それとこれとは……
と俺は言いかけたが、すぐにムダだと
覚った。
俺がギターデュオをやるとき、俺はま
ず相手がどう出てくるかを観察し、そ
の場で方針を決めて自分のソロを弾く。
同僚はますます熱く語り出した。そし
てそれに対する相手の反応をさらに観
察して、次の手を決める。その繰り返
しだ……
そんな現場のことを知っているはずの
お前がなんでそんな事なかれ主義のサ
ラリーマン根性丸出しのことを言うん
だ。同僚は俺に噛みつかんばかりに言
った。
なんでこいつはいつもビジネスの話が
白熱すると、自分のギターデュオの話
に脱線していくんだ。俺は思った。こ
れが始まると手がつけられなくなる。
もう夕方で腹も空いてきたが、夕飯に
ありつけるのには時間がかかりそうだ。
……と考えていたら、乱暴に揺り動か
されて目が覚めた。
まったく、なんでこんな良い演奏が聴
けるのに寝ているんだおまえは。同僚
が信じられないという顔で俺を見てい
た。
出張先にあるライブハウスで同僚の好
きな宇田さんとかいうジャズ・ギタリ
ストのライブをやっていたので同僚に
誘われるまま入ったのだった。お前と
1日いるととても疲れるんだというセ
リフが口から出かけるのをこらえて、
俺は目の前にある気の抜けたビールに
口を付けた。
長い出張になりそうだ……
(このお話は例によってフィクション
で、現実の出張やビジネスやジャズ・
ギタリストとは何の関係もありません。
……おそらく、ね)
て、ことで。
それでは、また。( ̄▽ ̄)
お読みいただきありがとうございま
した。こんな話やら、セッションノ
ウハウ情報などお届けする無料のメ
ルマガをやっておりますので、よろ
しければご登録ください。その他、
色々な音楽企画やシニアライフにま
つわる話題をお届けしております。
こちらからどうぞ。▼▼▼
https://seniorlife.sakuraweb.com/page-48/