(前回の続きです)
青鬼の立てた計略に従って、青
鬼と赤鬼は山の麓の街のジャズフ
ェスにエントリーしました。
鬼をジャズフェスに参加させるかで、
地元では賛否両論ありましたが、フェ
スの主催者が「頭の角のあるなしで参
加者を差別はしない」という原則を貫
いたことで、参加できることになりま
した。ダイバーシティは大切ですね。
そして、フェスの当日、赤鬼は青鬼と
一緒に会場に入りました。もちろんヘ
ッドライナー的な扱いではないので、
午後の早い時間ではありましたが、鬼
がジャズを演奏するという物珍しさに
惹かれて客の入りは悪くありませんで
した。
まず青鬼がステージに上がります。
青鬼はルーピングマシンを使いながら
複雑に音を重ね合わせ、不協和音を詰
め込んだ演奏を始めました。通常のコ
ード進行ではなく、非機能的な和声の
オンパレードでその上妙なスケールを
使ったため、そういう音楽を聴きなれ
ない観客は目を白黒させました。
使ったため、そういう音楽を聴きなれ
ない観客は目を白黒させました。
「なんだこれは」
「こんなもの音楽じゃない」
「うわあああ、助けてくれ」
そんな声が聞こえる中、阿鼻叫喚にな
る一歩手前で青鬼は演奏を終えました。
青鬼は楽屋に戻ってくると赤鬼にいい
ました。「さあ、早く行くんだ」
青鬼に背中を押されるようにして、赤
鬼はステージに出ました。そして、ご
くごく普通のスタンダードナンバーを
ソロギターでごく普通に演奏しました。
「わかりやすい!」
「やっとまともな音楽が聴けた!」
「おおおお、癒される」
赤鬼の演奏が終わると、観客は総立ち
で拍手するありさまでした。こうして
フェスを救ったヒーローとして、赤鬼
はたちまち人気者になったのです。
赤鬼が山に開いたカフェにも、街の人
たちがやってくるようになりました。
赤鬼は毎日忙しく店を切り盛りし、手
の空いた時間には、店内でライブ演奏
をするという、最初に思い描いたよう
な充実した生活を手に入れました。
それでも赤鬼には一つ気になることが
ありました。あの青鬼があのフェス以
来一度もカフェにやってこなかったの
です。
赤鬼は青鬼の家を訪ねることにしまし
た。行ってみると家の戸は固く閉まっ
ており、戸の脇には張り紙がしてあり
ました。
それは、
「赤鬼くん、人間たちと仲良くして、
楽しく暮らしてください。もし、ぼく
が、このまま君と付き合っていると、
君も変な音楽が実は好きな鬼だと思わ
れるかもしれません。それで、ぼくは
旅に出ます。どっちにしてもぼくの音
楽はここでは受け入れてもらえないの
で、 ぼくの音楽を聴いてもらえる大都
会に行くことにしました。ぼくはいつ
までも君を忘れません。さようなら、
体を大事にしてください。ぼくはどこ
までも君の友達です」
という青鬼の置手紙でした。赤鬼はそ
れを読んでさめざめと泣きました。
青鬼がいなくなってだいぶ経つ今も、
赤鬼は、思うのです。自分は人気者に
赤鬼は、思うのです。自分は人気者に
なって店も繁盛しているけれど、音楽
的な冒険はできなくなってしまった。
ちょっとアウトなフレーズを弾いても
客は妙な顔をする。
人気と引き換えに自分は音楽的な自由
を手放してしまったのかもしれない。
青鬼のように自分の音楽を追求してい
くことはもうできない。そう思うと赤
鬼の目からは今も再び涙が頬を伝って
流れ落ちるのでした。
(この話はフィクションですので、実
在する街や山や鬼とは何の関係もあり
ません。あと別に私は超アウトなフレ
ーズが特別好きなわけでもないです。
いや、ま、ちょっとは好きだけど 笑)
て、ことで。
それでは、また。( ̄▽ ̄)