(今日のお話はフィクションです)
よし、これでほぼ完璧だろう。
俺は深いため息をついて、自宅の俺の
部屋で独り言をつぶやいた。そして、
いましがた五線譜上に仕上げた譜面を
眺めた。
それは、とあるバンドの曲のギターソ
ロのパートを俺が自分の耳で聴いてコ
ピーしたものだった。いわゆる耳コピ
というやつだ。
別に自分のためにしたわけではない。
俺は、ふだんはジャムセッションをや
っているので、バンドの完コピのよう
なことはしない。
仕事上のクライアントの部長から頼ま
れたものだ。その部長とは音楽が共通
の趣味ということで、話が合うところ
もあり、色々と良くしてもらっている。
担当楽器もギターで同じだ。
なんでも彼のバンドでやることになっ
たが、最近では珍しくギターソロのパ
ートが重要で、そこのコピーをしない
といけないのだが、忙しくて時間がと
れないので、頼めないかと言ってきた
のだ。
仕事と趣味の混同はしたくないが、断
るのも角が立つ。結局おれは引き受け
て、家での空いた時間にコピーをする
ことにした。
耳コピなんていうのは、長いことやっ
たことがなかったが、幸いそれほど長
いソロではないので、なんとか完成で
きた。1つや2つの間違いはあるかも
しれないが、まあ十分だろう。
ちょっと達成感もあって、俺は少しに
やけた顔をしていたのかもしれない。
そこに妻がいきなり入ってきた。
ちょっともうすぐお昼でしょ? 今日
はあなた当番よね? ……何ひとりで
ニヤニヤしてるの? 気持ち悪いわね。
あ、いや、ちょっと頼まれていたこと
があってさ。
俺は、いい気になって、頼まれたギタ
ーパートの耳コピの話を妻にした。そ
のできに満足していること、自分の耳
もまんざらでもないと思ったこと……
そんなことを妻に話した。
妻はそんな俺の話を無関心な顔で聞い
ていた。そして、
ふーん。で、昼ご飯は? と言った。
わかったよ、今作るから。俺はあきら
めて台所に向かった。
昨日リクエストがあったから、○○屋
のアジフライ買ってきたよ。俺は、ア
ジフライやご飯やみそ汁などをセット
したトレイを妻の前に置いた。
え? 何言ってるの? わたしが食べ
たいって言ったのはカキフライじゃな
いの。
え、でも……。俺は記憶をたどりなが
ら言った。そんなはずはない。俺はた
しかにアジフライと聞いた……と思う。
いや、カキフライ? いやいや……
まったく、そのギターのソロはしっか
り聞いて完コピしたとかいいながら、
わたしが言ったことはちゃんと覚えら
れないってどういうこと? まあ、そ
ういう人よね、あなたって人は。
妻からは皮肉な言葉が、砲弾のように
降り注がれてきた。こうなると止まら
ない。反論すると倍返し、いや10倍返
しにあってしまう。
そのわりには、ずいぶん美味そうに喰
ってるじゃないかそのアジフライ。俺
はそう言いたいのをこらえて、黙って
それを聞いていた。
※このお話はフィクションですので、
実在のクライアントの部長、ギターソ
ロパート、アジフライやカキフライと
は無関係です。
て、ことで。
では、また ( ̄▽ ̄)
お読みいただきありがとうございま
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