（今日のお話はフィクションです）
父親が会社に出勤してる今が
チャンスだと思って私は行動に
出た。
テレワークだか在宅勤務だかが始まっ
てからというもの、父親は家にいるこ
とが多いのだが、今日はどうも出社に
なったらしい。私は父親の部屋に入っ
た。
別に父親に内緒で部屋に入らなくても
いいのだが、面と向かって相談したり
話したりするのも面倒くさい。話が長
くなるのもいやだ。
私は、父親の部屋の隅のギターが所狭
しと置かれている一角に向かった。
高校の芸術科目で私は音楽を取ってい
るのだが、今年はなんと楽器演奏でギ
ターをやることになったのだ。
小学校に入る前からピアノはやってい
たのだが、ギターを弾いたことはほぼ
ない。家でギターの話をすると、父親
のうんちくなどを色々聞かされるので
避けてきたということもある。
ピックアップとか言うものの違いとか
ビンテージがどうとか、どのギタリス
トがどんなギター弾いているのかとか、
弾き方のスタイルの違いがどうとか。
アンプは真空管じゃないととか、エフ
ェクターの種類の話とか。ジャムセッ
ションがどうとか。
そんなことに私は全く興味がない。そ
のくせ、私の好きな最近のバンド（推
しというほどでもないが）の話をして
も、全く知りやしないのだ、うちの父
親は。
とにかく私は授業の準備のための練習
用にギターを借りたいだけだ。
いない間にさっさとどれにするか決め
て、自分の部屋に持って行ってしまお
うと思って父親の部屋に忍び込んだの
だ。これだけ沢山あるなら、１本くら
い持ち出しても気がつかないのではな
いだろうか。
たとえ気づかれても、部屋に持ってい
ってしまえば、こっちのものだ。何か
いわれても無視してとりあわないか、
母親を味方に引き入れてしまえば大丈
夫。
母親は父親のギターのコレクションを
本当は処分したくてしょうがないのだ。
私は、林立するギターを物色しはじめ
た。学校の授業なので、ロックギタリ
ストが弾くようなエレキギターでない
方がいい。アコースティックなもので
指が痛くなりそうな鉄（？）の弦でな
いのが良さそうに思えた。
そうやって見回していると、１本のギ
ターが目に留まった。小振りなサイズ
のナイロン弦（というんだよね、たし
か）を張ったギター。
私はそのギターを手に取ってみた。持
ちやすくていい感じだ。弦は押さえず
にぽろんと弾いてみた。短調っぽい和
音の音がした。
こんどは左手で弦を押さえながら弾こ
うとしてみる。なかなかきれいな音に
ならない。こうしてみると、結構大変
そうだ。やはり家で練習が必要だろう。
私は、いろいろ弦の押さえ方を試して
みた。ときどきうまく押さえられると
良い音がしてうれしかった。
私は床に座ってそのギターを弾き始め
た……
……ところで肩を揺さぶられて目が覚
めた。
あんた、こんなところで何してるの？
見上げると母親がいた。私は事情を説
明した。
だったらさっさとそれ持って自分の部
屋に行きなさい。まったくお父さんだ
けじゃなくてあなたまで、居眠り癖が
あるなんて、困ったもんだわ。
私は、ギターを手に部屋に戻った。高
校生は忙しいのだ、勉強もしなくちゃ
ならないし、友達と LINE もしてみん
なに取り残されないようにしなくちゃ
いけない。ネットの動画だって、最新
のドラマだってチェックしておかなき
ゃいけない。倍速で見ても間に合わな
い。
睡眠時間も足りなくなって当然だ。
そしてギターの練習だってしなくちゃ
いけないのだ。
※今回のお話はフィクションですので
現実の高校生、その母親と父親、そし
て父親のギターとは無関係です。
て、ことで。
では、また。(￣▽￣)
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